私がPCオーディオに取り組み始めたのは、2008年頃だったと思います。
始めた頃は手探り状態で音も悪かったのですが、年を経るにつれ高音質化が進みピュアオーディオ機器として十分に使える所まで成長しました。
この成長速度はかなり早く、吉田苑のリファレンスシステムもそれにつれて変遷を重ね今に至ります。
実はこのリファレンスシステムの機材変更が去年は一度も行われなかったのです。
2008年以降、つねに進化し続け頻繁に機材更新が行われていたリファレンスPCオーディオシステムですが、ついに1年間変化無しという所までたどり着きました。
実際、現在のリファレンスシステムはかなりのクオリティを持ち、同価格のCDプレーヤーより高音質だと感じております。
PCを核としてUSBケーブルでDACと接続するという「PCオーディオ」は、2019年に一つの節目を迎えたのだと思います。
急激な成長の時代は終わり、成熟期に入ったように感じます。進化の早いPCの世界で1年もの間変化が無いと言うことは、驚くべき事態であり「PCオーディオ」は一つの到達点に達したのかも知れません。
そして、データ再生のもう一つの柱である「ネットワークプレーヤー」がここへ来て進化を始めました。
「PCオーディオ」はUSBケーブルを使用して音楽信号の受け渡しを行いますが、「ネットワークプレーヤー」はLANケーブルを使用して音楽信号の受け渡しを行います。
今までは、その音楽信号の受け渡しを行う通信プロトコルとして「UPnP/DLAN」が使用されていました。
ですが、この「UPnP/DLAN」という規格はオーディオ用に開発された物ではなく、ネットワークプレーヤー黎明期にネットワーク機器を接続する通信規格として既に存在した物をベースとして、流用したにすぎません。
このあたりの流れは「PCオーディオ」黎明期に接続方法がUSBケーブルしかなかったためにDACをUSBケーブルで接続するようになったのと同じです。
どちらも、その時たまたま使える物(規格)があったので採用しただけで、音質は一切考慮されていません。
「UPnP/DLAN」にしろ「USB接続」にしろ、本来はオーディオ用ではないために高音質化の大きな足枷となっていました。
「PCオーディオ」は未だにその足枷から逃れることが出来ずに、USBケーブルの改良やノイズフィルター、クロック装置を間に挟む等の、涙ぐましい努力が続けられています。
対して、「ネットワークプレーヤー」はその根本的な部分である、通信プロトコルその物をオーディオ用に開発するという段階に進みました。
その代表が、Roon の開発した「RAAT」や日本で開発された「Diretta」です。
ここでお詫びを申し上げないとなりません。
Roonの「RAAT」は 2016年には世に出ています。
もちろんその当時、Roonの試聴は行いましたが「RAAT」(Roon Ready対応と言った方が分かりやすいです)対応機器が、ほぼ存在していなかったために、USB接続で試聴を行い、その高額なソフト代金に見合う音質ではないと結論を出していました。
ですが、最近の海外メーカー製ネットワークプレーヤーはほぼ例外なく「Roon Ready対応」を誇らしげに前面に出しており、あらためて「Roon」 を「Roon Ready対応機」にて試聴したところ、その優位性に驚き、今更ながらのご紹介となりました。
「RAAT」は「Roon Ready」と読み換える方が通りが良いので、以降「Roon Ready」とします。
どのような優秀な規格でも、採用するメーカーが無ければ普及すること無く廃れてしまいます。
ですがこの「Roon Ready」は採用メーカーが現時点で70社(しかも大手が多いです)以上もあり、急速にその勢力を拡大しています。
この流れは、海外で特に顕著で「Roon Ready」対応機で無ければ、ネットワークプレーヤーにあらずという時代になりつつあります。
「Diretta」は普及に力を入れているようですが、現時点で商品化されているのは SFORZATO社のみでありやや、寂しい状況です。
「Roon Ready」と「Diretta」の両方に対応しているSFORZATOの先見の明には感心します。
正確を期すると、現在SFORZATO製品は「Roon Ready」に対応はしていますが、「Roon Ready」対応認証は受けておりません。
このあたりの詳しい話は、また別の機会にさせていただきます。
そして、もう一つ見逃せないのが「ストリーミング再生」の高音質化と普及です。
「ストリーミング再生」は去年大きな進化を果たし、ついに日本でもハイレゾストリーミングサービスが始まりました。
AMAZON MUSIC HD と mora qualitas です。
去年の配信開始時点では、音質で有利な mora qualitas をおすすめしていましたが時間経過と共に AMAZON MUSIC HD が有利になりつつあります。
ストリーミング再生の音質の肝は再生ソフトにあります。
その再生ソフトですが、配信開始直後はそれぞれの専用再生ソフトでの対応となり、利便性の AMAZON と高音質再生を目指した mora qualitas という差別化が出来ておりましたが
各オーディオメーカーの AMAZON MUSIC HD 対応が進むにつれて、音質差が逆転しはじめました。
ネットワークプレーヤーでAMAZON MUSIC HD に対応してしまえば、音の悪い純正再生ソフトから解放され、単純にネットワークプレーヤーのクオリティに依存するようになります。
そうなってしまうと mora の優位性は消えてしまい、実際にそうなりつつあります。
AMAZON の浸透力は凄く、急速にネットワークプレーヤーメーカーへ広がりつつありますが、mora はその点で圧倒的に出足が遅く、ネットワークプレーヤーへの対応は完全に出遅れています。
このままでは、楽曲数でも大幅に劣るmoraの勝ち目は無くなってしまいそうで、心配しております。
この調子ですと、日本のハイレゾストリーミング市場はAMAZONの一人勝ちとなってしまいそうです。
時代の流れは「ハイレゾストリーミング」を「ネットワークプレーヤー」で再生するという時代になりつつありますが、単純に音質だけで評価すると「PCオーディオ」がまだ一歩先に進んでいる状況です。
ですが、その差はかなり縮まり一時期のような大幅な音質差は無くなりつつあります。
そして、Roon のような、圧倒的な音楽の楽しさを詰め込んだ再生ソフトがここまで高音質化を果たすと、「PCオーディオ」の小さな音質上の優位性は消えてしまうかも知れません。
少なくとも、これからデータ再生を始める方は Roon を核としたシステムへ進むべきだと思います。
それほど Roon のもたらした衝撃は大きな物で、「Roon Ready」対応システムで聞く音楽世界の広がりは深く広く、まだ見ぬ世界へと導いてくれます。
ストイックに音質のみを追求する場合は「PCオーディオ」を音楽を気軽にしかし内容は濃く、必要十分な高音質で聞く場合は「Roon Ready」対応機を核としたシステムをここまでは、最低限のPC知識が必要です。
そして、PCのことは分からないけれど「ハイレゾ」が聞いてみたいという方には「AMAZON MUSIC HD」 対応「ネットワークプレーヤー」という具合に求める物に応じた対応が出来るようになってきました。
「PCオーディオ」の進化が止まった今 「ネットワークプレーヤー」がどこまで迫る、もしくは追い越すことが出来るかがこれからの見所です。