久しぶりに静電型スピーカーを試聴しましたのでご報告です。

静電型スピーカーは一般的なコーン型スピーカーとは動作原理が違います。
帯電させた薄い膜を振動させて音声信号を出力させる方法で、膜全体から音が放射されます。
歪み率が低く、忠実度が高いという特徴がありますが、固定電極である外部ケースと振動膜の間隔を広く取ることが出来ないため、狭い隙間での振動となり(大振幅動作が出来ない)結果として低音の再生を苦手とします。

そのため、一部の高額モデル以外は低音域を通常のコーン型スピーカーに受け持たせ、中高域を静電型から放射させるハイブリッドモデルが主流となっています。

一昔前にアメリカで流行し、一時代を築きましたが現在ではヘッドフォンでその魅力を発揮しており静電型スピーカーは珍しいジャンルとなりました。

静電型スピーカーは、上手に鳴らすことが難しく使い手の腕を要求します。
さらに、特定の周波数でインピーダンスが急低下するという弱点を持ち最低インピーダンスが1Ωを切るようなモデルも昔はありました。(ちなみにこのモデルは20KHzで1.6Ωまで低下します)そのため、静電型スピーカーを鳴らすためには瞬間電流供給能力の高い大型アナログアンプが必要となります。
このように、制約が多いため少しずつ人気が落ちて行き現在日本に正式輸入されている静電型スピーカーはマーティンローガンのみとなってしまいました。ですが、静電型スピーカーでなくては出せない独自の音があるため、今でも一部の方から強い支持を得ています。

静電型スピーカーの魅力は独特の空間表現にあります。
広い振動板面積から音が放射されるため、音が部屋中に広がり音に包まれる快感に浸れます。その動作原理の弱点である、振幅幅の狭さのために力強い音が出せない点もプラストなり繊細で、柔らかい陽炎のような音像に満たされた浮遊感に満ちた独自の再生空間を構築可能です。

スピーカー位置での音質変化量が大きなスピーカーで、ミリ単位で音が変化するためセッティング難易度は大変高く根気のいるスピーカーでもあります。しかし、完璧な位置に設置出来れば、音の海に浮かんでいるような唯一無二の音響体験が可能です。

振動板は透明なため、反対側が透けて見えます。

横から見ると、振動板の薄さが良く分かります。
下の箱はコーン型ウーハーの低域部です。

振動膜を歪曲させることにより、音波を広範囲に放射出来るようになっています。
昔は平面でしたので、音波は真っ直ぐ正面に飛びさらに設置難易度を上げていました。

もう一点静電型スピーカーの特徴があります。
それは、後ろにも正面と同じ量の音を放射するということです。
そのため、スピーカー背面の壁面の影響を強く受けます。

このように、様々な制約のあるスピーカーですがこの方式で無いと再現出来ない世界を構築可能である点で
唯一無二である事は確かです。
深夜に小音量で音楽の海に沈みたい時にぴったりだと思います。