2ヶ月ほど前に導入し、現在の吉田苑メイン電源装置になっていながらご紹介が遅れてしまいました。
ほぼ同時期に発売された PsAudio の電源装置 DirectStream Power Plant シリーズと比較試聴してからでないと
ご紹介出来ないと考えて、Power Plant P15 を発注していたのですが入荷が遅れ、昨日ようやく入荷しました。
一晩通電して、じっくりと両者を比較試聴しましたので、まずは nichicon ESS-P1S1 からご紹介させていただきます。

nichicon ポータブル蓄電システム ESS-P1S1 の購入はこちらから

皆様、何だこれは?と驚かれたと思います。
どう見てもオーディオ機器には見えません。
しかもブランドは nichicon(ニチコン) です。私のように回路を弄る者ならば コンデンサメーカーの ニチコンとすぐに分かりますが、一般のユーザー様がコンデンサメーカーまではご存じないと思います。
吉田苑で改造機を製作する際にも良く使用するコンデンサメーカーで、特にアルミ電解コンデンサに良い物を供給してくれる東証一部上場企業で信頼出来るブランドです。
大企業ならではのサービス網を持っているため、故障の際は自宅まで機材を取りに来てくれます。
しかも安心の10年保証付き(沖縄、離島地区は1年保証です)です。

最初に、ニチコンが電源装置を発売したと聞いたときには「なぜニチコンが電源装置?」と思ったのですが、内容を聞いて納得しました。

この ESS-P1S1 という機材は「ポータブル蓄電システム」です。
PC用語では UPS (無停電電源装置)と言った方が通りが良いかもしれません。
内部に巨大なリチウムイオン電池を内蔵し、停電時に瞬間的に内部電池へ電源を切り替える事により、停電に備えるのが本来の目的の機材です。

コンデンサも電気を蓄え、必要に応じて放電することが仕事ですので、規模が違うだけでやっている事は同じなのです。
電池容量は 2kWh で満充電状態の場合、通常の大型オーディオシステムの場合4時間ほどの駆動が可能です。
消費電力の少ないデジタルアンプですと20時間くらいは使用出来ます。

出力は2系統しか無いのが残念ですが、音質を考えるとあまりたくさんの機材を接続するわけにはいきませんので、これくらいが適量かもしれません。

通常時は、接続された商用電源から充電を行いつつ接続された機材へはスルー出力で電源を供給します。
そして、いざ停電時には自動で瞬間的に内部電池へ切替わり接続機器への給電を切らすことがありません。
これが重要です。作業中のPCの電源が落ちること無く使用が継続できます。最も、この機能はオーディオでは重要ではありませんが・・・

昔からバッテリー駆動や電池駆動は、商用電源のノイズから遮断できるため理想的な電源だと言われていました。
定期的にバッテリー駆動アンプが発売され、自作マニアの間ではどのメーカーのバッテリーが音が良いか等々議論になるほどでした。
ですが、理想と現実は中々一致せず、実際にバッテリー駆動を行うと線の細い力感の乏しい音となり陽炎の様な淡い表現となるのが常でした。
私が知る限り、鉛バッテリー駆動で良い音を出す事に成功したアンプはDYNAUDIO arbiter だけです。
このアンプは時価でプリ、パワーセットで 2,400万円ほどしました。
パワーアンプはモノラルで片chだけで140Kgあり、輸送に本当に苦労しました。
鉛バッテリー駆動で良い音を出そうとすると物量投入するしか方法が無く、このような化け物になってしまうのです。

しかし、時代は進み電気自動車の普及に伴い電池は鉛バッテリーからリチウムイオンへと進化し、信じられないほど高性能になりました。
小指の先ほどの小さなリチウムバッテリーでヘリコプターのラジコンが軽々と空を舞う姿を見て驚愕したのは、ほんの数年前の話です。

このリチウムイオンバッテリーならば良い音が出せるかも知れないと、常々考えてはいたのですが、実際に試す機会が無いままになっておりました。
そんなところへ、ニチコンさんがリチウムイオン電池の蓄電システムを発売したとのニューズが入ってきて、飛びつきました。

すぐに1台仕入れワクワクしながら充電し、試聴開始です。
「う~ん?」
確かに、商用電源の汚染から逃れることが出来ているようには感じますが、期待したほどの効果が感じられません。
クリーンで透明なバックグランドになってはいるのですが、全体的に濁った感じで躍動感に乏しく、きれいだけど楽しく無い音になってしまいました。
鉛バッテリーのような力の無さは感じられないので、もう少し透明度が上がれば使えるのではないかと、色々工夫してみました。


これはオリジナルの脚周りです。
タイヤと通常の脚の二段構えになっています。しかし、良く観察すると両方共プラスチック製で弾性を持たせてあります。
吉田苑オーディオの基本に従い、弾性のある物は外してリジットに固めます。
タイヤはプラスねじ4本で固定してあるので、ネジを外せば外せます。
右の脚は固定されていませんので、回すだけで外せます。


右側の脚を外すと都合の良いことにスパイクを立てるのにぴったりのM8ネジ穴でした。
早速M8のスパイクを立てます。
このM8スパイクはご購入者の方にサービスでお付けします。

スパイクを立てて設置すると、これが同じ機材かと疑うほど音が変化しました。
家電製品ですので、当たり前ですが音響対策は一切されていません。
そのため、脚周りを固めるという基本的な作業をするだけで、見違えるほど良い機材に成長してくれました。
焦点が合い、曖昧さや滲みが取れキレ味鋭い透明な世界が出現しました。
この時点で採用決定です。すぐさまPC用にもう一台発注し吉田苑店頭は現在 ESS-P1S1の 2台体制になっております。

この機材の最大の利点である、商用電源からの完全な遮断を行うために充電用の電源ケーブルにも少し手を加えました。
100Vの入力がある状態ではこの機材は何も仕事をしません。
ですので、オーディオ機器へ給電する際はESS-P1S1への給電を止めて、停電状態にする必要がございます。
コンセントを抜けば良いのですが、面倒ですし何度もコンセントの抜き差しを行うとインレットが劣化しそうで不安です。
そのため、給電用電源ケーブルに両切りのスイッチを組み込みました。


両切りスイッチとは言葉通りで、ホット側とグランド側の両方に接点を持つスイッチでこの両方を切断することが可能なスイッチです。
通常のスイッチは片側を切断するだけで、もう片側は商用電源に繋がったままです。
そのため両切りしないと完全な遮断にはなりません。
このスイッチを組み込んだ電源ケーブルもご購入者の方にサービスでお付けします。

気合いを入れて記事を書いたため長文となってしまいましたが、吉田苑が同じ電源装置を2台も導入したことはオープン以来はじめてです。
それほど、この機材は音質改善効果が高く使い方次第で色々な事が出来ます。

吉田苑店頭では、1台からアンプとDACへ供給しています。
これは、商用電源から隔離することによるS/N比の向上を狙った使い方です。
もう1台はPC専用になっており、オーディオ専用PCが1台だけ接続されています。
これは全く逆の使い方で、PCからの電源ノイズを完全に遮断する目的で使用しております。
もちろん、PC本体の音質向上にも繋がっていますが、それ以上にPCから電源を経由して入ってくるノイズを遮断出来るメリットの方がはるかに大きいです。

通常型オーディオ電源装置は、商用電源を再生成して新たな電源を作り直すモデルが多く、同時に導入したPsAudio Power Plant も同様の方法を使っています。
この方法はこの方法なりのメリットがあるのですが、商用電源にコンセントは接続されたままで、この影響から完璧に逃れることは出来ません。

ニチコン ESS-P1S1 は今まで理想とされてきたバッテリー駆動を現実的なサイズと価格で実現できた優秀な電源装置だと思います。

注意点がございます。
家電製品のため初期不良でも交換対応では無く、修理対応となります。
修理の際は、メーカーさんが自宅まで機材を取りに来て、一旦代替機を貸し出し修理完了後に返却するというシステムとなります。

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